(続き)
「こういっては失礼だがいかにも場末のスナック」の入口は、燃えた後のくすぶった煙の臭いと、消火器の粉でモクモクとしてしていた。
Y先生がなにやら中と話している。
どうやら、人がいるらしい。
おじいさんが一人出てきた。
「お店の人ですか?」
「いいや、違う。なに、なんなの、これ?」
どうやら、朝から(か昼からか、は知らないが)聞し召しており、カラオケなんぞも歌っていたそうで、夕方のその時間おじいさんは酔っぱらって店で寝ていて、店の人はお客を残して帰ってしまったらしく、酔っ払いで事情のよく掴めないおじいさんは呆然としていた。
通報者ということで、私は何人もの警察や消防の人に入れ替わり立ち替わり話を訊かれた。
そして知ったのだが、あの人たちが人の身元を訊くとき、名前の次に生年月日を訊くのね。
あと、住所と電話番号。
会社の名前とかは訊かない。
結局小一時間ばかりも足止めを食い、子供たちもトイレにも行けず隣のアパートの駐車場に待機させられ、最後に救急の人に軽い問診と酸素濃度の測定をされて、ようやく帰宅と相成ったのであった。
帰宅途上、あいちゃんと、明日学校や会社に行って自慢しようという話をして、他愛もなくひとしきり盛り上がった。
翌日に聞いたところによると、学童保育の先生は、なお足止めをされ、あのおじいさんの身許が分かるまではいてくださいと警察に頼まれたらしい。
そんなこといったって、隣の店で酔っ払って寝ていたという、なんの関係もないおじいさんのために、まあ災難なことであった。
当日の帰宅後も消防から一件電話があった。訊いてくることは一緒だった。
で、思ったのである。
第一発見者を疑え、というではないか。
火事の出火原因の第一は放火である。
放火犯の心情は、猥褻犯ほど理解することが私には適わないが、それでも一種の愉快犯であると想像される。
すると、火をつけただけでは満足をせず、それが騒ぎを起こすことが目的であるようにも考えられる。
ならば、自分で火をつけて自分で通報するという輩が、世の中には少なからずいるのではなかろうか。
現に私も通報後しばらくして消防車が四方からやってくるのにびっくりしたし(火は消えたのに)。
警察の聴取の常套テクニックだとは思うが、いろいろな人が入れ替わり同じことを訊いてくる。
おじさんだったり若者だったり綺麗なおねえさんだったりと多彩である。
これは、やはり何かボロを出さないか、ということをチェックしているのではなかろうか。
まあそれでも、結果的にいわゆるボヤで済んだ案件であっても、あれだけの消防と警察が瞬時にして動員されるのを見ると、日本の公共インフラはたいしたものだと思う。
出火の原因などは、今もって聞いていない。
(了)